大阪地方裁判所 平成11年(ワ)3659号 判決 2000年6月20日
原告
株式会社アテックス
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
筒井豊
右補佐人弁理士
【B】
被告
有限会社天美製作所
右代表者代表取締役
【C】
右訴訟代理人弁護士
村林隆一
右補佐人弁理士
【D】
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、別紙イ号物件説明書記載の物件を輸入し、及び販売してはならない。
二 被告は、原告に対し、金六七二〇万円及び内金四八三〇万円については平成一一年四月一六日から、内金一八九〇万円については同年一一月三日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要等
一 前提的事実(証拠の掲記がないものは争いがない。)
1 原告の有する実用新案権
(一) 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)の権利者である。
登録番号 第三〇〇三三八五号
考案の名称 ベッド
出願日 平成六年四月二〇日(実願平六-五五四二号)
登録日 平成六年八月一〇日
(二) 本件実用新案権は、出願当初の明細書には実用新案登録請求の範囲に請求項8まで記載されていたが、実用新案法一四条の二に基づく訂正により請求項1、2及び7が削除され、また、被告が申し立てた無効審判請求事件(平成九年審判第四〇〇三一号)の審決において請求項3ないし5が無効とされてこれが確定したため、現在、有効に存続しているのは、請求項6及び8のみである(甲一の一)。
本訴において問題となるのは請求項6であり、同請求項の実用新案登録請求の範囲は、本判決添付の登録実用新案公報該当欄記載のとおりである(以下、請求項6の考案を「本件考案」という。)。
(三) 本件考案の登録請求の範囲は次のとおり分説するのが相当である(請求項6は請求項1の考案の従属形式であるため、両者を総合した構成要件を記載する。)。
A 前ベッド半体2及び後ベッド半体3を備え、
B 上記前ベッド半体2と後ベッド半体3を、水平展開自在、かつ該前ベッド半体2の裏面2a側と該後ベッド半体3の裏面3a側が相互に近接する倒立V字型に折畳み自在として、枢着すると共に
C 上記倒立V字型の方向へ折畳まれるように弾発付勢する、一対の第1・第2引張バネ33、34から成る弾発部材Sを設け、
D 第1引張バネ33は前ベッド半体2の前端と中間支持脚12の間に張架され、かつ、第2引張バネ34は後ベッド半体3の後端と中間支持脚12の間に張架されたことを特徴とする
E ベッド。
(四) 本件考案の作用効果
前後ベッド半体は、側面視倒立V字型に折畳まれるので、前後ベッド半体に布団を載せたまま収納・展開することができ、収納・展開の際に布団の位置がずれたりしない。特に、布団が広がる方向の力を自重によって受けるので、型くずれを生じず、しわもよりにくい。したがって、別の場所に布団を収納する必要がなく、布団収納のための手間とスペースを省くことができる。
さらに、安価に製作できるとともに、第1・第2引張バネ33、34に関する構成により、水平展開状態近くで比較的大きい上昇力Fを生じて、楽に手で折畳むことができるように有効に補助してくれる。
3(一) 被告は、平成一〇年九月ころから現在まで、別紙イ号物件説明書記載のベッド(以下「被告商品」という。)を輸入、販売している。
(二) 被告商品は、本件考案の構成要件AないしC及びEを充足する(弁論の全趣旨)。
4 原告は、被告に対し、平成一一年三月二九日付警告書により、本件考案に係る技術評価書を提示して、被告商品の輸入、販売行為に対して警告を行った。
二 原告の請求
原告は、被告が被告商品を輸入、販売することは、本件実用新案権を侵害するとして、その差止めと損害賠償を求めている。
第三争点
一 被告商品は、本件考案の構成要件Dを充足するか。
被告商品は、第一引張バネ33が前ベッド半体2の「前端」と中間支持脚12の間に、第二引張バネ34が後ベッド半体3の「後端」と中間支持脚12の間にそれぞれ張架されているといえるか。
三 故意又は過失
二 損害額
第四争点に関する当事者の主張
一 争点一(被告商品は、本件考案の構成要件Dを充足するか)について
【原告の主張】
1 本件考案の「先端」、「後端」の意義について
(一) 本件考案の「先端」及び「後端」とは、その用語本来の意味及び本件実用新案権の実用新案登録出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の記載からすると、平板状のベッド半体において、端縁を含んで端縁からある程度の広がりを持った部分であって、かつ、当業者が「前端」、「後端」と理解し得る範囲内の部分を指す。
(二) 被告は、本件考案の出願前の公知技術(昭和五四年第四九二〇九号公開実用新案公報及び昭和五三年第一四九四五二号公開特許公報)に基づいて、本件考案の解釈を文言通りとしなければならないと主張するが、被告が摘示する公知技術には、本件考案の構成要件の一部が開示されているにすぎず、これらによって、本件考案が全部公知といえないことは明白である。
したがって、上記公知技術を理由に、本件考案をその文字通りのものに限定して解釈しなければならない理由はなく、被告の主張は失当である。
(三) また、本件において、包袋禁反言に該当するような事情はない。
(1) 元来、被告が引用する実験報告書(乙三)は、その内容が不正確であり、同報告書に基づいて被告が述べるような「前端」、「後端」に関する解釈を根拠づけることはできない。
(2) また、右報告書は、「バネの作用点が、ベッドの最外辺に近づけば近づくほど、折畳み上昇力が増加するという『定性的な特性』を示した実験」であり、「試料№2の付加パイプの位置を『中間』と定義するために作成」したものではなく、右報告書を根拠に、原告が本件考案のように端部にバネを取り付けたものは効果があり、進歩性を有していると主張したような事実はない。
2 被告商品について
被告商品の各ベッド半体において、第一第引張バネ33、第二引張バネ34が張架されている位置は、各ベッド半体の端縁から約一〇・八センチメートル内側に入った個所であり、端縁からの長さは各ベッド半体の長さの略一〇パーセント程度である。
したがって、被告商品の第一引張バネ33、第二引張バネ34が張架されている位置は、前ベッド半体の前端、後ベッド半体の後端というべきであり、構成要件Dを充足する。
【被告の主張】
1 本件考案の構成要件Dにいう「前端」、「後端」の意義について本件考案にいう「前端」及び「後端」の意義は、文字通り、前端とは「前の端」を、後端とは「後の端」を指すものと解釈すべきである。
(一) 明細書の記載からの解釈
本件明細書の段落【0019】には、「ベッドを使用しない場合は、後ベッド半体3の前端部と前ベッド半体2の後端部を持ち上げて、前後ベッド半体2、3を折畳んで、ベッド収納部1に収納する。・・・・・・第1引張バネ33は前ベッド半体2の裏面2a側に、第2引張バネ34は後ベッド半体3の裏面3a側に、夫々配設され、前者は前ベッド半体2の前端(固定支持脚16)と中間支持脚12(の下端縁)との間に張架され、また、後者は後ベッド半体3の後端又はベッド収納部1と、中間支持脚12(の下端縁)との間に張架されている。」と記載されている。そこでは、前端部と前端、後端部と後端を使い分けをしており、また、前端は固定支持脚16のことであり、後端はベッド収納部1のことであると明示されていることによって、その図面と併せ考える時、前端とは文字通り前の端であり、後端とは後の端であると解さざるを得ない。
ちなみに、大辞泉(小学館)及び広辞苑(第四版・岩波書店)によると、前端とは「まえのはし」のことであり、後端とは「うしろのはし」のことである。
(二) 出願経緯からの解釈
(1) 本件実用新案権は、実体審査を経ないで成立したものであり、かつ、実用新案登録請求の範囲の記載(クレーム)に関し多項制によっている。そもそも多項制のクレームは、クレームの補正を制限し、その結果、実施例と同様の技術についてまでもクレームすることができる制度であり、本件考案についていえば、請求項1ないし3のクレームが仮に無効となっても請求項6ないし8のクレームを生かすことによって出願人の権利を認めるとともに、審査の促進に寄与しようとするものである。本件の場合は、まさに、請求項6及び8以外は削除又は無効となったが、請求項6及び8のみ生き残ったものである。右の経緯から見て、請求項6はまさに本件考案の本質的部分であり(最高裁判所平成一〇年二月二四日判決・民集五二巻一号一一三頁参照)、均等の許されない事項であり、拡張を認めることはできない。
(2) 原告は、本件実用新案権の無効審判請求事件において、実験報告書(乙三)を提出したが、この実験によると、原告製折畳みベッドにおいて、ベッドの先端及び後端にバネを張架した場合(試料№1)とベッドの先端から一九五ミリメートルの位置及びベッドの後端から一五〇ミリメートルの位置にそれぞれパイプを渡し、その部分にバネを張架した場合(試料№2)とを比較して、中央部の引き上げに要する力が、試料№1は一・五キログラムであるのに対し、試料№2は三・二キログラムであるとしている。
右に基づき、原告は特許庁において、「バネ端が各ベッド半体の前後端に取付けられている試料№1のものは軽く、端部ではないパイプに一端が取付けられている試料№2のものは重い。よって、本件考案のように端部にバネを取り付けたものは効果があり、進歩性を有している。」と主張した。審決も、これを受けて、「請求項6に係る考案の『前ベッド半体2の前端』及び『後ベッド半体3の後端』、並びに請求項8に係る考案の『前ベッド半体2の前端』とは、各ベッド半体の先端を指すものと解すべきである。」と認定した上で、本件考案は「楽に手で折畳むことができるように有効に補助してくれる」という本件明細書記載の効果を奏するものと認定したのである。
このように、原告は、特許庁において、進歩性を主張するために実験報告書を提出して右のような主張をし、これが入れられて本件実用新案権が有効であると判断されているのであるから、これに反する主張をすることは許されない(包袋禁反言)。
(三) 公知技術からの解釈
(1) 本件実用新案権出願前に、次の公知技術が存在する。
① 昭和五四年第四九二〇九号公開実用新案公報(「折りたたみベッド」)
右によると、スプリング4は、床取付金物1と、中間折曲部近傍部間のベッド台2の側面に取り付けられている。
② 昭和五三年第一四九四五二号公開特許公報(「格納ベッド」)
右によると、バネ12端は連結材10の下端部と、化粧支持板9及びベッド本体1の格納箱3の近傍部付近に取り付けられている。
右①、②とも、そのバネによって折り畳みの際の上昇力を付与しているものである。
(2) したがって、右の公知技術の存在にかかわらず、本件考案が有効であるとすると、本件考案の解釈については、公知技術を含まないように解釈しなければならない。
そうであるならば、請求項6は、その文字通りのものに限定しなければならない。
2 被告商品について
被告商品の第一引張バネ、第二引張バネが、それぞれ前端又は後端に及んでいないことは明らかである。
したがって、被告商品は、本件考案の構成要件Dを充足しない。
二 争点二(故意又は過失)について
【原告の主張】
1 被告は、本件実用新案権について無効審判を請求し(特許庁平成九年審判第四〇〇三一号)、特許庁は、平成一〇年六月八日付で、「登録第三〇〇三三八五号実用新案の明細書の請求項第六項、第八項に記載された考案についての審判請求は、成り立たない。」との審決を行い、右審決書は遅くとも平成一〇年八月末までには被告に対し送達された。
2 したがって、被告は遅くとも平成一〇年八月末以降、本件考案が無効審判の結果、特許庁によりその有効性が認められたことについて認識していたことが認められ、かつ、被告商品が本件考案の技術的範囲に属することを知り又は過失によりこれを知らないで、被告商品の販売を継続したものであるから、被告が右の時期以降に被告商品を販売した行為については、本件実用新案権侵害の故意又は過失が認められる。
【被告の主張】
【原告の主張】1の経過は認めるが、2は争う。
三 争点三(損害)について
【原告の主張】
被告は、平成一〇年九月ころから平成一一年九月三〇日までの間に、被告商品を、三万二〇〇〇台販売し、合計六七二〇万円の利益を得た。
したがって、原告が被った損害額も六七二〇万円と推定される。
【被告の主張】
争う。
第五当裁判所の判断
一 争点一(実用新案権侵害)について
1 本件考案の構成要件Dにおける前ベッド半体の「前端」及び後ベッド半体「後端」の意義について
(一) 考案の技術的範囲は、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないが、その場合、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義を解釈しなければならない(実用新案法二六条、特許法七〇条一項、二項)。
本件明細書において、前ベッド半体2の「前端」及び後ベッド半体3の「後端」がいかなる意味内容で使用されているかを検討すると、バネ張架位置にかかる前ベッド半体2の「前端」及び後ベッド半体3の「後端」に関する記載については、次のとおりであり、その余の記載は存在しないことが認められる(甲一の二)。
(1) 【課題を解決するための手段】における、「弾発部材が一対の第1・第2引張バネから成ると共に、第1引張バネは前ベッド半体の前端と中間支持脚の間に張架され、かつ、第2引張バネは後ベッド半体の後端と中間支持脚の間に張架される。」との記載(段落【0007】)
(2) 【実施例】における、「第1引張バネ33は前ベッド半体2の裏面2a側に、第2引張バネ34は後ベッド半体3の裏面3a側に、夫々配設され、前者は前ベッド半体2の前端(固定支脚16)と中間支持脚12(の下端縁)との間に張架され、また、後者は後ベッド半体3の後端又はベッド収納部1と、中間支持脚12(の下端縁)との間に張架されている。」との記載(段落【0019】)
(3) 図1、図3ないし図5の記載(なお、右各図面は、いずれも前ベッド半体及び後ベッド半体の各先端部分と中間支持脚との間にバネが張架されている図が記載されている。)
右各記載から明らかなとおり、本件明細書における、バネの張架位置に関する前ベッド半体2の「前端」及び後ベッド半体3の「後端」についての記載からは、実施例の図面においてバネが張架されている位置である各ベッド半体の先端部分が含まれることは明らかであるが、その部分を超えて、前ベッド半体及び後ベッド半体の一定の範囲を有する部分を指すものか、あるいは先端部分のみを指すものか明らかではないといわざるを得ない。
(二) そこで、本件明細書の他の記載を検討すると、本件明細書には、支持台枠31の位置を「ベッド全体の後端位置」としていること、「下端縁」あるいは「左右側縁部」という用語が用いられていることが認められ(甲一の二)、このことからすると、縁の部分を特定して指す場合には特別の用語を使用していると解する余地もなくはない。他方、本件明細書には、前ベッド半体及び後ベッド半体の一定部分を指す場合に「前端部」及び「後端部」、あるいは「前端側」及び「後端側」という用語が用いられている部分もあることが認められ(同号証)、一定の範囲の広がりを持つ部分を指す場合には右のような用語を使用していると解する余地もあるというべきである。
したがって、本件考案において、前ベッド半体2の「前端」及び後ベッド半体3の「後端」が、一定の広がりを持つ部分を指すのか、その先端部分を指すのかは明確でないといわざるを得ない。
(四) そこで次に、本件実用新案権の無効審判請求事件の手続経緯についてみると、甲二、乙三及び六によれば、本件実用新案権について被告が申し立てた平成九年審判第四〇〇三一号無効審判請求事件において、請求人である被告は、実願昭五二-一二三八三一号(実開昭五四-四九二〇九号)のマイクロフィルム、特開昭五三-一四九四五二号公開特許公報等を先行公知技術として提出し、本件実用新案権における請求項3ないし6及び8に係る考案は、先行技術に基づいて当業者が極めて容易に考案できたものであるとして、本件実用新案権は無効であるとの審決を求めていること、被請求人である原告は、平成一〇年五月一一日の口頭審理期日において、同年五月九日付けの原告企画開発部作成の実験報告書(乙三)を提出するとともに、「請求項6及び請求項8における『前端』とは前ベッド半体の先端であり、『後端』とは後ベッド半体の先端をいう。」と陳述するなどして、被告の申立てに対し反論していることがそれぞれ認められる。
右実験報告書には、①バネを中間支持脚と前ベッド半体の先端部分及び中間支持脚と後ベッド半体の先端部分にそれぞれ張架した折り畳み式ベッド(試料№1)と、中間支持脚と平行に、かつ、枠体を横断するように、前ベッド半体の先端位置から一九五ミリメートルの位置及び後ベッド半体の先端位置から一五〇ミリメートルの位置にそれぞれバネ先端部がくるようにパイプを取り付け、中間支持脚と右各パイプとの間にバネを張架した折り畳み式ベッド(試料№2)とを用いて、その中央部を引き上げるのに要する力の大きさを比較したこと、②試料№1は約一・五キログラムで引き上げられたのに対し、試料№2では約三・二キログラムを要したこと、③右実験結果に基づき、試料№1はバネ取付部材が係合された先端及び後端に付勢力が働くものであるのに対し、試料№2のベッドに働くバネの付勢力の大きさ及び付勢力の働く位置は試料№1とは全く異なるとの考察をしていること、以上の記載があることが認められる(乙三)。
そして、右事件の審決では、本件考案については結論として請求人である被告の主張を退け、実願昭五二-一二三八三一号(実開昭五四-四九二〇九号)のマイクロフィルムに開示されている考案とは、スプリングの個数及び張架位置が異なること、また、特開昭五三-一四九四五二号公開特許公報に開示されている発明は第1、第2引張バネを張架しているが、倒立V字型に折畳み可能としたものでなく、ベッドの基本構造が相違するとともに、引張バネ自体の張架位置も、前後ベッド半体の前後端に張架したものではない点が相違し、この構成と他の構成とが相まって、本件考案は「楽に手で折畳むことができるように有効に補助してくれる」という効果を奏するものであるとして、無効事由は存在しないと判断していること、また、審決書の末尾において、なお書きとして、本件考案の「前ベッド半体2の前端」及び「後ベッド半体3の後端」とは、各ベッド半体の先端を指すものと解すべきであると認定判断していること、さらに、本件実用新案権の請求項3ないし5の考案については、請求人である被告が提出した先行公知技術から当業者が極めて容易になし得るものであって、進歩性を欠如するものとして無効であると判断していることがそれぞれ認められる(甲二。なお、請求項3ないし5は、本件明細書の記載より明らかなとおり、バネの張架位置についての構成上の特定はない。)。
右各事実を総合すると、原告は、無効審判請求事件において、本件考案における前ベッド半体2の「前端」及び後ベッド半体3の「後端」とは、それぞれの先端部分であると主張して、それによる顕著な効果を立証し、これを受けて、審決において本件考案における右バネの張架位置が先行公知技術と相違するものと認められて、請求人である被告が主張する進歩性欠如の無効事由が存在しないものと判断されたものと解さざるを得ない。
(五) 原告は、乙三(実験報告書)は、そもそもその内容が不正確であり、「バネの作用点が、ベッドの最外辺に近づけば近づくほど、折畳み上昇力が増加するという『定性的な特性』を示した実験」であり、「試料№2の付加パイプの位置を『中間』と定義するために作成」したものではないとして、乙3を根拠に、本件考案の「前端」、「後端」を解釈することはできないと主張するが、同主張は、前記(四)認定の無効審判手続の経緯に照らして、到底採用することができない。
(六) したがって、本件考案にいうバネ張架位置である前ベッド半体の「前端」及び後ベッド半体の「後端」とは、それぞれ前後ベッド半体の先端部分を指すものと解釈するのが相当である。
2 被告商品は、前ベッド半体2の先端から三九ミリメートル離れたベッドフレームに裏面取付金具45が固定され、当該裏面取付金具45に回動自在に補助金具42が取り付けられ(補助金具42と裏面取付金具45は、前ベッド半体2の先端からは一〇八ミリメートル離れた個所で接している。)、当該補助金具42の他端と中間支持脚12との間に第一引張バネ33が取り付けられている(別紙イ号説明書第11及び12図参照)。
右のような被告商品の構造からすると、被告商品の第一引張バネの一端は、補助金具42を介して前ベッド半体2の先端部分から一〇八ミリメートル離れた位置において、前ベッド半体2に張架され、他端は中間支持脚12に張架されていると見るのが相当である。そして、第二引張バネ34の張架態様は、第一引張バネ33と同様であるから、被告商品の第二引張バネ34の一端は、補助金具43を介して後ベッド半体3の先端部分から一〇八ミリメートル離れた位置において、後ベッド半体3に張架され、他端は中間支持脚12に張架されていると見るのが相当である。
そうすると、被告商品においては、前ベッド半体2及び後ベッド半体3の各先端部分までバネが張架されているということはできず、本件考案にいう前ベッド半体2の「前端」と中間支持脚12の間及び後ベッド半体3の「後端」と中間支持脚12の間にバネを張架しているということはできない。
3 したがって、被告商品は、本件考案の構成要件Dを充足しない。
三 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央)
<以下省略>